つぶやき第2回:欧州と日本のレストランとワイン

ヨーロッパに長年訪れてレストランに行ってワインを飲んでいると、日本のレストランでワインを頼むのが嫌になるので外で飲む機会が本当に少なくなる。文化的なものを言ってしまえばそれまでだが、これだけ日本でワインが消費されているのに提供側の知識不足なのか状況はよくない。

その①グラスワインの量

日本ではボトル750mlで8杯取り(つまり1杯100ml満たない!)のレストランが多い。まあ、6杯取り(125ml)のケースもあるがそれでも少ない。例えばボトルの販売価格が3000円だとする。前者の8杯取りだと、1杯400円、後者だと500円となる。もちろん売れ残りがでるので実際はそこにリスク係数を入れて高めに提供することが多い。どちらにしても8杯取りなんかで出されるとワインを飲んだ気持ちにならない。パリやイタリアの気軽なビストロみたいなところだと、ほぼグラスワインは入れすぎっていうほど注がれてくる。高級レストランはともかく気軽な店でグラスの3分の1にも満たないグラスワインがでてくると食欲も失せるものだ。

その② 原価率がおかしい

これは経営側からすると文句が来そうであるが、日本のレストランはおかしいほどの原価率計算をしている。仕入れの3倍は平気でかけてくる。つまり1000円のワインでも3000円になる。3000円のワインはなんと1万となってしまうのだ。こんな状況でワインを気軽に外で飲むことはまず無理。特にワインを知っている人からするとアホらしくなってしまう。ヨーロッパではだいたい1.5−2倍。ミシュランの2つ星でも2倍程度。つまりミシュランの星付きレストランでも5000−6000円でボトルを十分に楽しめるわけだ。ちなみに3つ星は3倍のところが多い。3つ星は値段のステータスも重要だからだ。ただしサービスやワインのレベルが違うので3倍払っても高いという思うことはまずないといっていい。

話を戻すとそこのレストランしか飲めないようなワイン、何千本もストックしてあり保管状態も良い店、最高のサービスと最高のソムリエがいるような店は3倍でも良いのだ。なぜならば3倍払う価値があるからだ。私自身もヨーロッパではレストランでワインを買うことがよくある。それはどこを探しても手に入らないワインで、さらに保管状態も最高なケースの場合が多い。ただ私の場合は原価と価値を知っているので2倍以上の値段では買わないようにしている。

一方、居酒屋などでコンビニでも売っているようなワインが3倍の値段だとあほかと思いたくなる。有名な立ち食いのXXXステーキなどは1杯のグラスワインの値段が小売の1本と同じものがあった。つまり6倍以上消費者にふっかけているというわけだ。経営側があほなのか、儲けようとしているのかは分からないが消費者はそこまでバカではない。

私がイタリアのトラットリア(ビストロ)にいくとまずよく飲むのがプロセッコ(ヴェネト州のスパークリング)。これはテラスで飲むには最高の1本だ。席についたらほぼリストは見ないで、すぐにオーダをする”Avete una botteglia di prosecco?” – プロセッコボトルで頂戴だ。値段は見ない。なぜならばプロセッコのそこそこのやつは7−8ユーロで仕入れができる。だいたい店は仕入れの2倍にするから15ユーロ程度となる。相場があるのだ。ビストロなんかでワインを頼むのに、高級レストランのように値段とにらめっこしないとだめなんて、楽しみが半減だ。グラスワインも同じでピノ・グリージョ(品種)が飲みたければVorrei un bicchiere di Pinot Grigio” – ピノ・グリージョ一杯頂戴だ。

居酒屋であればビールいっぱいの代わりにプロセッコやカヴァなどの安旨スパークリングを売り込めばいいと心底思う。生ビールは原価率が悪く儲からない。場合によっては赤字のケースもある。一方1000円の仕入れプロセッコを2000円で販売するとする、4人テーブルであれば1人500円で飲めるではないか??原価率は悪いが確実に1本捌けるので店としては生をずーと飲まれるより良いはずだ。1000円の仕入れを3000円なんかで売るからおかしくなるのだ

その③ ブランド好き

人のことは言えないが、実際の消費者はブランドを重視する(それが悪いわけではない)。デートなどで“イタリアのエトナ山麓のXXワイン”っていうよりはブルゴーニュって言ったほうがわかりやすいしかっこいいからだ。これはこれで悪くないが、名前より質をとる消費者がいることもレストラン側は理解しておくべきである。投棄が入り間違いなくコストパフォーマンスが悪いボルドー、ブルゴーニュ、ナパなどを扱うようでは努力が足りないといえる。特にあまりワインを飲んだことない人は美味しいワインを飲みたいだけのケースがあるのでこの場合は質をとればいい。

ただ質が取りにくいのは仕方ないことかもしれない。ほとんどのレストラン経営者は実際に生産者を訪れてワインの本質を知る機会はないからだ。ちなみにこの現象はほとんどのソムリエも同じことだ。試飲会などにいって年間1万本テースティングしても、井の中の蛙ということ。試飲会は数が多いのでインパクトだけの評価になりすぎだからだ。そのワインを知るにはどの料理と合わせるか、いつの季節に飲むのが良いか、誰と飲むのか、抜栓後初日の状態と2日目はどう変化するのかなど考えることがサービス提供側は重要だ。夏にバローロやボルドーを出されても困るではないか・・・

今はないとは思うが、フランスではボトルを見せずにデキャンタをしたものをソムリエがもってくるような店もあった。つまり、消費者の先入観をなくすためだ。本当に美味しいものを味わってほしいということだ。

個人的に信頼ができるソムリエがいた店は2箇所。1つはフランクフルト郊外のラインガウにある店、もう1つはリスボン郊外にある店だ。優れたソムリエは懐具合も、さり気なく察してくれる。決して1万を超えるようなワインは勧めない。なぜならば彼らは自分の足で何がコストパフォーマンスが良いのか、地元の誇りと情熱を持っている。このようなソムリエの場合はすべてお任せする。日本にもそんな店があればよいが出会ったことはない。

その④ ハウスワインの意味をわかっていない

ハウスワインはその店の顔だ。ハウスワインは店が努力をしてリサーチして、コスパ抜群のワインをいかにお客様に提供するか、いわゆる店の見せ場なのだ。日本でまともなハウスワインに出会ったことはまずない。安い流通の多いまずいワインを出すところばかりだ。つまりそんなものを出すくらいならハウスワインなど提供しなければいいのにと思う。

July 2019, Ken Hattori

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